読んだ本をすぐ忘れないために書くブログ

本当にすぐ忘れます、なんでだろう

『テス』トマス・ハーディー / "Tess of the d'Urbervilles" by Thomas Hardy (1891)

BBCが選ぶ英文学100選を一生かけて網羅してやろうと思いたち数ヶ月。

トマス・ハーディー作『テス』は51位にランクインしており、『日陰者ジュード』(こちらは23位)に次ぐハーディーの代表作である。原題は"Tess of the d'Urbervilles"で、時おり『ダーバヴィル家のテス』とも訳されている。

 

テスは美貌と豊満な肉体にめぐまれ,しかも純な心と強い感受性の持主だが,貧困ゆえにつぎつぎと苛酷な運命にもてあそばれ,一歩一歩と悲劇的な破局にむかって歩んでゆく。その無残な生涯が緊密な構成でリアリスティックに描き出される。

テス (上) - 岩波書店

 

物語は貧乏な家で暮らす主人公テスの父親ジョン(飲んだくれでまともに仕事をしないし心臓が悪い)と牧師との会話で始まる。「あんたの家系は今じゃ落ちぶれているが、もともとは裕福で有名な家系の血筋なんだよ」と牧師がジョンに話したことから、ジョンが調子に乗ってしまい被害を被る娘テス、という構図で、このあたりは喜劇的な取っ掛かり。

ダメな父親と、たくさんの子供たち、家庭を支える直向きで真面目な長女…というなかなかよく見る家族構成。

親戚だと思われる(完全に推定、苗字が同じだけの)裕福な家に「私はあなた方の親戚なんですけど…」と言って何かしらのお恵みを受けるために両親に送り出されたテスは、ここでのある男との出会いってしまい…。(悲しいことにこの家は親戚でもなんでもない全く無関係の家だったという皮肉つき)。

 

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BBCのドラマ版の『テス』

このキャスティングは、小説を読んで文字から得られたイメージそのままなので、これから読むぞ!って人はこの顔をイメージして読むのがおすすめ。

左エンジェル、真ん中テス、右アレク。この3人さえ覚えていればこの物語を十分楽しめる。

 

あらすじから分かるように悲劇悲劇悲劇…となかなか暗い展開が続く。『テス』を最後まで読んで、これは悲劇が否か少し迷う展開だなというのが正直な感想で、何をもって悲劇というのだろうと考えてしまった。

19世紀末に女として、貧しい家の長女として生まれ、ましてやテスは、純粋で控えめな田舎娘で、人生において選択の余地はない。数々の悲劇はテスが起こしたものではなく、被ったものであり、何かを強いられるがままに生きているような印象を受ける。

ラストはテスのとある行動により幕が閉じることになる。テスが自分で考えて選んだ道であり、望んだことであるのだから悲劇の一言では括れないと思う。悲劇の代表格であるロミオとジュリエットなんて、全く報われない…。

今まで読んだ海外文学で間違いなくトップ5に入る作品。ぜひ再読したい。