読んだ本をすぐ忘れないために書くブログ

本当にすぐ忘れます、なんでだろう

『荊の城』サラ・ウォーターズ / "Fingersmith" by Sarah Waters (2002)

BBC100選リーディングチャレンジ14冊目

Amazon等でオースティンやブロンテなどイギリスの女性作家の本ばかりあさっていると必ずと言っていいほどサラ・ウォーターズをおすすめされるので、長年気になる存在だった。読もう読もうと思い続けて早数年…はじめてのサラ・ウォーターズは『荊の城』を読むことにした。

19世紀半ばのロンドン。17歳になる少女スウは、下町で掏摸を生業として暮らしていた。そんな彼女に顔見知りの詐欺師がある計画を持ちかける。とある令嬢をたぶらかして結婚し、その財産をそっくり奪い取ろうというのだ。スウの役割は令嬢の新しい侍女。スウは迷いながらも、話にのることにするのだが…。CWAヒストリカルダガーを受賞した、ウォーターズ待望の第2弾。

 

前半のあらすじ

スーザン(通称スゥ)は泥棒一家で暮らし、育ての母(サクスビー夫人)に特に大切にされて暮らしている。生みの母親は窃盗を犯し、絞首刑となったと聞かされて育った。ある日、紳士(リチャード)がやってきて、ブライア城に住む娘モードの財産を奪う計画を打ち明ける。それは、スゥを侍女として城に住まわせ、モードの信頼を得たのち、リチャードとの結婚を取り持たせるといういうものだった。モードと結婚してしまえば、財産だけを奪って、彼女を精神病院に入れてしまう魂胆だ。

無事侍女として採用され、モードの傍で暮らし始めるスゥ。モードは厳格な伯父の所有するブライア城で暮らす静かな少女だった。しかし、スゥは貶める相手であるはずのモードに惹かれ、2人は段々と仲良くなっていくのだった。リチャードは度々城に訪れ、モードへ好意を寄せるが、モードはなかなか靡かなかった。スゥはモードへの好意を押し殺して、紆余曲折の末、モードとリチャードを極秘結婚させることに成功する。そして、モードを精神病院に閉じこめるため、スゥとモード、リチャードの3人は病院へ向かうのだが…。

 

感想

ゴシック犯罪小説と言われてるのはちょっと物騒すぎない?という感じがするけれど、ディケンズ風といったほうがわかりやすいかもしれない。個人的には、お屋敷小説、メイド小説としての色も強くて、イギリス作品好きには胸に刺さるポイントが多すぎる。さらにウォーターズは作品に必ずレズビアンを登場させていて、本作も百合小説としても人気。終始薄暗い雰囲気が纏うものの、決してどんよりしたものではなく、ちょっぴり妖艶で、人間味に溢れる感じがドラマチックな展開とも相まっている。前半をあらすじをざっくり書いたけれど、ここまではまだ序の口で、後半にどんでん返しが待っているので後半にはあまり触れないでおこう…。

それはそうと、2016年には本作を原作とした韓国映画『お嬢さん』が公開されて、一時期話題になったことを思い出した(当時、ミニシアターなどで活動していて、大小いろんな映画館に通っていたのでよくポスターを見た記憶がある)。私は原作を絶対先に読みたい派なので、当時映画を見ることはなかったのだが、今回本を読み終わってすぐ『お嬢さん』を視聴。…韓国映画ヴァージンをトンデモナイ作品に奪われてしまい瀕死!もちろん、本でスゥとモードの関係や距離感にドキドキするものの、映像で目から摂取してしまうと、その生々しさと初々しさを怖いぐらいに感じて、シンプルに「ああ、すごいものを見た」と思ってしまう。

ゴシック犯罪小説だなんて堅苦しい言葉を飾っているものの、このロマンチックでミステリアスで切なくてゴシック風味もあってディケンズのような伝統のイギリス文学感もあって、プロットもキレッキレで…なかなか一言では表せない要素が多すぎる。イギリス文学を読んでみたいけど、ちょっとハードルが…と思ってる人に無理やり押し付けたい。

 

(本を読みながらプロットメモを残したので、気が向いたらネタバレ用の後半のあらすじを載せるかもしれません)