読んだ本をすぐ忘れないために書くブログ

本当にすぐ忘れます、なんでだろう

『リヴァトン館』ケイト・モートン / "The House at Riverton" (The Shifting Fog) by Kate Morton (2007)

前回の記事で、取り上げたサラ・ウォーターズ。ウォーターズが好きな人はケイト・モートンも好き。モートンが好きならウォーターズも好き。それがこの世の真理!ということで今回はケイト・モートンを読んでみることに。

新しく何かいい本に巡り会いたいなと思ったときは、Twitterで「#名刺代わりの小説10選」や「#20XX年のベスト10」などのハッシュタグを使って、自分の好みの本のタイトルを検索して、読書好きの方のツイートを見て探すようにしているが、ウォーターズ好きな人はだいたいモートンも書いてるし、モートン好きな人はウォーターズを書いている。そして安定のAmazonのおすすめも、ウォーターズを見ていたらモートンをごり押ししてくる。

ゴシック風の作品が好きな私は、廃版ながら高評価の『リヴァトン館』を無事ゲット。不人気なわけではなく出版元の倒産が原因で廃版しているよう。なんてもったいない…。お屋敷で繰り広げられる家族の物語、過去の記憶、秘密とその告白…この手の要素がある作品に目がなく、まさに『リヴァトン館』もその類だ。もちろん、モートン自身はあとがきで「ゴシック風の技法」を用いる小説の要素を以下のように述べている。

過去につきまとわれる現在。家族の秘密へのこだわり。抑圧された記憶の再生。継承(物質的、心理的、肉体的)の重要性。幽霊屋敷(とりわけ象徴的なものが出没する屋敷)。新しいテクノロジーやうつろいゆく秩序に対する危惧。女性にとって閉鎖的な環境(物理的にも社会的にも)とそれに伴う閉所恐怖。裏表のあるキャラクター。記憶は信用ならないこと、偏向した歴史としての性格を帯びること。謎と目に見えないもの。告白的な語り。伏線の張られたテクスト。(p.328-329, 著者解題, リヴァトン館(下))

まさに本書にはこの要素が盛り込まれているわけで、どのような秘密や過去が明らかにされてゆくのかを愉しみに読んだ。

あらすじ①

老人介護施設で暮らす98歳のグレイス。ある日、彼女のもとを新進気鋭の映画監督が訪れる。1924年に「リヴァトン館」で起きた悲劇的な事件を映画化するにあたり、ただひとりの生き証人であるグレイスにインタビューしたいと言う。封じ込めていた「リヴァトン館」でのメイドとしての日々がグレイスのなかで鮮やかに甦る。ふたりの美しいお嬢様、苦悩する詩人、厳格な執事、贅を尽くした晩餐会―そして、墓まで持っていこうと決めたあの悲劇の真相も。死を目前にした老女が語り始めた真実とは…。滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた美しいゴシック風サスペンス。イギリス『サンデータイムス』ベストセラー1位、amazon.comベストブック・オブ・2008。

本作は、98歳のグレイスの視点で語られる。若かりし頃にリヴァトン館で過ごした日々とその悲惨な事件を、誰れも知らない真実を、ゆっくりと回顧していゆく物語。映画『タイタニック』のローズのように、年老いて死が目前に迫った時、過去の記憶を思いめぐらし、真実を誰かに託そうとする。現代と過去が交互に入り乱れ、少しずつ明らかになっていく。

時は現代、介護施設で暮らすグレイスの元に若き映画監督アーシュラから手紙が届く。グレイスが少女時代にメイドとして勤めていたリヴァトン館で約70年前に起こった悲劇の物語を映画化するため、グレイスに是非ともインタビューをしたいという。「イギリス詩壇の新星<ロビー>が社交界の盛大なパーティーの夜に、暗い湖のほとりで自殺する。目撃者はふたりの美しい姉妹<ハンナとエメリン>だけ、彼女たちはその後たがいに二度と口を利かなくなる。ひとりは詩人の婚約者で、もうひとりは愛人とうわさされていた」、それが一般に知られたリヴァトン館の悲劇だった。アーシュラの曾祖母がこの姉妹と親戚関係にあり、親子代々話継がれてきた物語なのだという。しかし、グレイスは誰にも明かしていないその夜の真実を知っている。そして、グレイスは孫のマーカスのためにテープを作り、自分の秘密を打ち明けることを決意する。

※※本書のネタバレを避けたい人は、あらすじ②と③は避けてください※※

家系図<1914年>

1914年のハートフォード家 ※灰色は故人

あらすじ②上巻

1914年、グレイスはメイドとしてリヴァトン館で働くことになった。独り身の母を田舎に残し、何故、未経験のグレイスが大きな屋敷に勤めることになったかというと、グレイスの母親も同館でメイドとして働いており、非常に評判がよかったことから—蛙の子は蛙―きっとグレイスも巧く働くだろう、ということだった。しかし母はグレイスにリヴァトン館での思い出は何一つ語らないのだった。

ハートフォード家の孫たちハンナ、エメリン、デイヴィッドがリヴァトン館に滞在した際に、グレイスは3人と出会い、親交を深め始める。特に同い年<14歳>のハンナとは意気投合し、仲を深めていく。

クリスマスにデイヴィッドは友人のロビーを館に招待する。妹エメリンはロビーに夢中になるが、姉ハンナはあまり靡かないようだった。時は1914年から1915年へ移り変わろうとしており、ヨーロッパでの戦争が終息する見込みはなかった。ロビーやデイヴィッドは参戦の意思を示す。

ある日お使いで町へ出かけたグレイスは秘書養成所の前でハンナと遭遇する。その当時の女性としては珍しく、女性の社会進出を希望していたハンナは、こっそりタイプや速記の秘書の授業を受けていた。グレイスもこっそり秘書になろうと通っているのだと思い込んだハンナは「これはわたしたちだけの秘密よ」と言う。ハンナと秘密を享受できたことを嬉しく思い、グレイスは敢えて否定しないのだった。

フランスでアシュベリー卿の長男ジョナサンが戦死し、その翌週、失意のアシュベリー卿も発作によりこの世を去った。その二人の合同葬式の翌日、ジョナサンの妻ジェマイマが懐妊したとの話題が飛び込んでくる。当主アシュベリー卿がなくなった今、次期当主問題が囁かれるハートフォード家。もしジェマイマの子供が男なら、その子供が当主となり、もし子供が女なら、次男フレデリック(ハンナたちの父親)が当主となる。

実家に帰った折、グレイスは母にハートフォード家の近況を語る。母は「かわいそうに。かわいそうなフレデリック」と口にしたのだった。その夕方、館へ戻ると、ジェマイマが産気づいていることを知らされる。生まれた子供は女の子だった。そして新しい当主<アシュベリー卿>はフレデリックとなった。1917年、戦火は衰えず、ついにハンナとエメリンの兄デイヴィッドが戦死した。

戦時中、業績が落ち、危機に瀕したフレデリックは、アメリカ金融界で名を馳せるラクストン氏をパーティーに招待した。ラクストン氏の息子で、後の夫となるシオドア<通称テディ>と出会う。結婚に全く興味のないハンナだったが、今や没落しかけたハートフォード家では、フレデリックも未婚のままで、一家の将来はハンナの結婚に掛かっていた。ハンナはテディから求婚されたことを一番初めにグレイスに打ち明けた。しかし、フレデリックラクストン氏との関係がうまくいっておらず、ハンナがラクストン家と親族関係になることに反対した。そして結婚するならばリヴァトンへは戻ってくるなと。1919年、ハンナとテディは結婚し、ハンナはグレイスを専属の侍女として引き抜き、ロンドンへと立った。

あらすじ③下巻

ロンドンでの新しい暮らしを始めたハンナ。2人は子供に恵まれず、夫婦生活もうまくはいかなかった。そこへエメリンのスキャンダルが飛び込んでくる。友人の邸宅を訪問していたエメリンはそこから男と共に逃げ出したというのだ。ハンナと対象的にエメリンは結婚を夢みていた。倍も年上の既婚の男と駆け落ちしようとするが、ハンナそこへが割り込んだこともあって、男から結局捨てられてしまったエメリン。徐々にハンナとの間に確執が生まれ始める。

翌朝、ハンナの部屋を掃除していると、グレイス宛ての手紙が置いてあった。中を開けるとハンナからの秘密の手紙で中身はすべて速記で書かれていた。速記が読めないグレイスはリヴァトン時代に知り合った秘書のルーシーを訪ねる。ルーシーに代読してもらうと、エメリンの事件でハンナを助けたお礼と「信用できるグレイス。侍女というより妹のような人へ」と添えられていた。

時は1922年へと移り変わった頃、グレイスの元に母の訃報が届く。久々に実家へと戻り、葬儀に参加すると、遠くから葬列を眺めるフレデリックの姿があった。伯母は「よくもまあ顔をだせたもんだ」と吐き捨てる。ハンナとグレイスが去ったあと、フレデリックがひどく落ち込んでいたことを聞き、これまでひた隠しにされてきた自分の出自、父親の存在について思いめぐらすグレイスは、自身の父親がフレデリックであることを悟る。そして、ハンナとは腹違いの「秘密の姉妹」だと。

ある日、ハンナの自宅にある紳士が訪れる。昔借りたものを返したい、と本を片手に現れた男はロビーだった。そこから再び姉妹とロビーとの交流が始まる。社交界デビューを済ませたエメリンは広い交友関係を持ち、毎晩パーティーに参加するなど派手な生活を送っていた。エメリンはロビーへの愛情を募らせており、度々二人で出歩くことも増えていった。しかし、その裏でハンナとロビーも逢瀬を繰り返しているのだった。世間向きにはエメリンを隠れ蓑にして。

精神的な戦争の後遺症を負っていたロビーは、自由を得るため、ハンナと共に逃げ出す計画を立て始める。ハンナはエメリンとロビーの関係がお遊びだと信じていたが、情熱的なエメリンは一方的にロビーを本気で愛していたことを知る。ロビーとの関係を諦めるように促すものの、エメリンは「ここから先はおたがい各自が選んだ人生を歩むことにしない?」と姉からの干渉を遮った。

1924年の夏、ハンナとテディはリヴァトン館へ戻ることとなり、リヴァトン復興を祝って祝宴が開かれることとなった。そのパーティーであの現代にも語り継がれる惨劇が起きた。そして事件から3か月が経ち、ハンナは懐妊したが、事件のショックで失意の内にかつての活気を失い、幽霊のようにふらふら屋敷を歩き回る日々。一方、エメリンは社交界で華々しく存在を露わにし、映画などに引っ張りだこだった。ショック状態のハンナを見舞うように、テディが手紙を送ったがエメリンが返ってくることはなかった。ハンナが臨月に近づいた頃、エメリンは事故でこの世を去った。あの忌々しい事件はハンナとグレイス<秘密の姉妹>の関係をも変えてしまった。ある日ハンナはグレイスに意味深な言葉を告げた、「あなたは速記が読めない」と。そして娘フローレンスを出産したハンナはそのまま死んでしまった。

フローレンスの父親がどちらだったのかは不明だったがロビーであろうというのがグレイスの見込みだった。テディも気づいていたのか娘を引き取らず、ジェマイマが引き取りラクストンではなくハートフォードの娘として育てられた。

では、「イギリス詩壇の新星<ロビー>が社交界の盛大なパーティーの夜に、暗い湖のほとりで自殺する。目撃者はふたりの美しい姉妹<ハンナとエメリン>だけ、彼女たちはその後たがいに二度と口を利かなくなる。ひとりは詩人の婚約者で、もうひとりは愛人とうわさされていた」というあの物語は終わったのか?グレイスの語る真実は違った。

1924年のパーティーの日、それがロビーとハンナの計画実行日だった。パーティーの夜にハンナの部屋に入ったグレイスは2通の手紙を見つける。一通はエメリン宛、もう一通はグレイス宛てだった。自分宛ての手紙を開封したが速記で書かれており、グレイスは読むことができず、慌ててエメリン宛の手紙も封を切ってしまった。その手紙には湖での自殺を仄めかす内容が書かれており、グレイスはエメリンと共に急いで湖へと向かう。

湖でハンナを見つけたが、ハンナはエメリンの登場に驚きを隠せず、あの手紙はジョークだったと告げる。本当は湖からの逃亡を自殺に見せかけるための手紙だったが、グレイスの勘違いで、エメリンに早く伝わってしまった。ハンナはエメリンにパーティーへ戻るよう促したが、ロビーがそこにいるのをエメリンは目撃し、ロビーとハンナの関係を悟り、逃亡を阻止しようとする。銃を取り出したエメリンをなだめ、手から銃を奪うハンナ。エメリンが邪魔なロビーは、ハンナにエメリンを打つように命令する。頑なに拒むハンナから銃を奪おうと迫るロビー。そしてハンナは引き金を引いた。そして、駆け付けた人々にエメリンは「ロビーが自殺した」と告げる。

では、あの速記の手紙はなんだったのか?グレイスは事件から何年か経って、ついに知ることになる。「私はロビーと湖から逃げる。自殺を装うが、無事だということはあなたに知らせておきます。もう1通のエメリン宛の手紙は、事件の翌日にエメリンの手に渡るようにしてください。何があっても今夜エメリンを絶対に湖に近づけないでください…あなたは秘密の扱いの達人だと信じています」と記されていた。

そして現代の世界ではアーシュラが制作したリヴァトン館の映画が完成した。映画の結末できっとロビーが自殺するのだ、とグレイスは確信している。そこで、アーシュラの祖母の名前が「フローレンス」だと判明する。アーシュラはジェマイマに引き取られたフローレンスを通じて代々一家の物語を語り継いできた。そしてグレイスは、自分の最期が迫っている中、グレイスしか知らない物語を孫のルーカスに託した。

家系図<1999年>

感想

あらすじは、グレイスの恋愛話や、途中差し込まれた現代のグレイスの話など、他にも枝分かれした部分が多数あったが、ハートフォード家の物語を中心に書いた。

本書を選んだ一つの理由でもあるが、メイド視点で描かれる物語好きだ。メイドは上階の人に仕えながら日々を過ごし、使用人たちの中で見聞きしたこと、上階の人々から盗み聞いたこと…どちらの世界の事情も収集できてしまう立場だと思う。ご主人様は使用人の住むフロアに入ったりしないし、そこの会話を聞く価値もないと思っているだろうけど、メイドはお客様に給仕をしていれば、なんでも耳に入ってくる。実際に、グレイスも客間で見聞きしたことを、ハンナに伝達する場面もあり、ある意味怪しまれないスパイのような存在。何年か前に『高慢と偏見』をメイド視点で語りなおした作品が話題になっていて、メイドの視点の面白さに気づいた。

また、家系図を広げながら読むのが大好きな私にとっては、後半になるにつれびっくりするぐらい家系図が大きくなっていって大満足だった。あの悲劇の引き金は何だったのか?なぜグレイスがそれを秘密にしないといけないのか?そう思いながら読み進めて、最後にグレイスが背負ったものの重さを知る。いい意味でも悪い意味でのハンナとグレイスは「秘密の姉妹」だった。秘密を持つことのひそかな内に秘めた喜びに対して、実際は非常に脆く、秘密を持ってしまったが故の落とし穴にお互いがハマってしまう。

最期に、本書のあとがきで、モートンが参考にした資料や作品の数々が列挙されていて非常に感動した。そして、この作品のようなゴシック風小説が読みたかったら…とおすすめ作品をいくつか挙げてある。なんて優しいのモートン…そのうちの一冊がトマス・H・クックの『緋色の記憶』で、『リヴァトン館』を読んだあとにすぐ読んだが、かなり共通点、モートンが意識したであろう箇所が多く、かと言ってパクリとかではなく、様々なリスペクトありきの『リヴァトン館』なんだと確信した。その他にもいくつかおすすめ作品が挙げてあったし、モートンの作品はまだあるので地道に読んでいこうと思う。

 

(読みながらあらすじメモとってたら長すぎてただのネタバレブログ状態でごめんなさい…)