読んだ本をすぐ忘れないために書くブログ

本当にすぐ忘れます、なんでだろう

『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア / “My Cousin Rachel” by Daphne du Maurier (1938)

舞台はイギリス・コーンウォール地方。幼い頃に親を亡くしたフィリップは、従兄アンブローズに育てられてきた。そんなアンブローズは冬の静養先のイタリア・フィレンツェで突然結婚をし、そのまま急逝してしまう。アンブローズの残した不審な手紙を手に、フィリップはまだ見ぬアンブローズの妻レイチェルを激しく恨むーアンブローズを死に追いやったのはレイチェルだ、遺産狙いに違いないのだーと。そんな折、レイチェルはアンブローズの遺品と共にコンウォールへフィリップを尋ねてくる。レイチェルとの会合を果たしたフィリップの中から恨めしさはたちまちに消え、心を惹かれるようになってしまう…。

デュ・モーリアといえば『レベッカ』が有名で、数年前にもNetflixで再実写化されたばかり。どの作家も代表作ばかりに手を伸ばしがちなので、たまには他の作品を…と思って選んだのが”もう一つのレベッカ”として銘打たれていた『レイチェル』である。

幕開け早々、言うまでもなく危険な香りがぷんぷんするレイチェル。齢24歳の青年フィリップに対して、一回りほど歳の離れたレイチェルは、フィリップがいくら優位に立とうとしても、一枚上手の話術で軽々あしらってしまう。そんな話し上手なレイチェルの様子が会話文からありありとわかる。それと同時にレイチェルに心を許してゆくフィリップの心境も手にとるようにわかり、みるみるとレイチェルに飲み込まれてゆくフィリップを見てハラハラするだろう。次第に周りの大人たちの言葉にも耳を貸さなくなり、レイチェルのために大胆な行動をとり始めるフィリップ。その上、25歳になったらアンブローズの遺した財産を継ぐと言うのだからまあ大変。

アンブローズという死者を通して繋がったフィリップとレイチェルの関係。フィリップしか知らないアンブローズとレイチェルしか知らないアンブローズがいる。そしていつでも2人の間にはアンブローズの影が潜む。レイチェルへ惹かれ、暴走気味になるフィリップを度々現実に引き戻すのは亡きアンブローズの姿だ。

そんなフィリップの行く末とレイチェルの本性、アンブローズの死を取り巻く疑問に悩まされて読み進めることになるだろう。これが不穏な空気漂うデュ・モーリアのゴシックロマンの世界。